見る人の心を捉える紐アート。【アーティスト・菅本 智】
11月15日号
菅本智さんと会ったのは、ある平日の夜。
場所は彼女のアトリエ兼自宅がある駅前の喫茶店。
長い黒髪を一本の三つ編みに束ねた姿はあの時から全く変わってない。
彼女にすぐ気づくことができた。
お会いするのはPecha×Kucha Nightのとき以来。
20秒ごとに変わる20枚のスライドを使った400秒のプレゼンテーションイベント。東京を拠点に活動している建築デザイナー、クライン氏とダイサム氏による企画で、2003年にスタート。
2年前の冬、彼女がプレゼンターとして参加していたイベント会場で私はオーディエンスの中にいた。スライドで流れた彼女の作品に心を奪われ、プレゼンが終わった後の彼女に声をかけたのが知り合ったきっかけだ。SNSやメッセージでやり取りした事はあったが、それ以来の再会だ。
今回、このメディアをつくるにあたって、彼女のことを紹介したい。と考えていた。
彼女の作る作品には感情が溢れてる。
紐で創られたこの作品は 【喜怒哀楽—The 4 feelings—】は、人間の代表的な四つの感情が、頭の中から溢れ出して来て身体の一部になった様子を帽子という形で表現している。
「人が好きなんですよ。人が何を考えているのかとか、ものすごく興味があるんです」
「パッと見ただけで伝わる作品を作りたくて、いつも自問自答してます。これは本当に見る人に伝わるのか?って」
その言葉通り、菅本さんの作品は目を惹く。一目で恋に落ちる。
どのような道を歩いてきたら、この様な豊かな表現にたどり着くものか。
ーーどんな子ども時代でした?
「裁縫上手な母で、何でも作ってくれていました。
例えば、保育園に着ていくスモックもデコレーションしてくれたりしました。」
小さい頃から、器用な母の隣で布と針を用いてモノ作りをしていたそうだ。
だが、「達成感があるから」との理由で勉強も好きだったそう。
そんなことから中高一貫の私立進学校へ。
だが、大学の進路を決めるとき、「本当にこの道でいいのか?」と悩んだ。
周りのクラスメイトに美大を目指す人はほとんどいない。
「不安でした。だけど両親は「そっちの方が面白そうじゃん」と背中を押してくれました。
念願叶って、東京藝術大学へ入学。
2年の時、課題制作で創作した「おこりねこ」は代表作の一つ。
一本一本竹串に色を塗り、乾かす。
発泡スチロールで出来た型に 色合いを調整しつつ竹串を刺していく。根気のいる作業だ。
怒りの感情を剥き出しにした猫の毛の逆立ちが竹串の鋭さに重なる。
卒業後、Non-verbal communication を表参道のスパイラルで行われるSICF15で展示した。
その際、アーティストとしても知られるスマイルズ(※1)代表の遠山正道さんに「見に来て欲しい」とメッセージを送ったそうだ。
「そうしたら、本当に見に来て頂けたんです。」
それがきっかけとなり、スマイルズが運営する表参道にあるセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」でおこりねこが展示販売された。
両手に抱えて、納品に行った時の事を「ねこの散歩みたいでした」と菅本さんが笑う。
装いのアートを普段の暮らしの中に。
ヘッドドレス・クラッチバッグ・蝶ネクタイ・・・
どれも、菅本さんの手法・センスによって素晴らしい作品になっている。
きっとそれは幼い頃、母親に作ってもらったモノで「装う」という、ワードが自分のアート創作の中に組み込まれているからなのだろう。
それがテクスチャーとして作品に現れている。
ーー今後の目標は?
「人の目に見えない感情や内面を表現した立体作品と、暮らしの中に取り入れやすい身に付けるアートの両方を生み出していきたいと思ってます。」
今後の菅本さんの活動も楽しみだ。
造形作家 東京生まれ。
2013年 東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
Website sato-sugamoto.com