「向き合うひとに寄り添うアート」【アーティスト・小木曽 瑞枝】

PLART編集部 2016.12.15
TOPICS

12月15日号

 

見るひとに寄り添う作品たち。

小木曽瑞枝さんのアートは、カラフルで明るい」「元気になるなどポジティブな言葉が浮かんでくる。その場にあるだけで雰囲気も気持ちも明るくなる。小木曽さんの作品が病院に展示される機会が多いのも納得できる。

現在は新潟県長岡市に住まいの小木曽さん。上京のタイミングに合わせ、作品が設置されている「神奈川県立がんセンター」へご一緒していただいた。

横浜の相模鉄道。駅名は「二俣川」。
神奈川に住まれてる人には”免許センター”で知られてる駅だそう。駅から、バスで7分ほどで目的の場所に着く。

丘の中腹にのってるように現れた病院は、高さはそれほどなく土地にも余白があり、周りの空が広く感じる。完成してまだ3年の新しい病院だ。「来たのは設置の時以来。他7名の作家さんの作品が恒久設置されてます。」と小木曽さんのアテンドを受け院内のエスカレータで作品のある2階通路へ。たどり着いた空間は壁一面、白い。

神奈川県立がんセンター/神奈川 アートディレクション:株式会社タウンアート  2013年制作

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神奈川県立がんセンター/神奈川 アートディレクション:株式会社タウンアート  2013年制作

作品は、側面に蛍光色が塗られており、観る角度を変えると違った表情になる。また側面の色が白い壁に反射して見えるのだ。周りが白いこともあり、まるで浮かんでいるかのようだ。

病院という自分の生き方と向き合うひと達の時間に寄り添っている。小木曽さんの作品がそこにあった事で、少しでも元気に、笑顔になる人がいればと願い、病院を後にした。


小木曽さんの作品には、黒が使われてない。尋ねるとこう答えてくれた。高揚感を集める・惹かれるものに焦点をあててます。そして、続けた。心が渇いた状態の時でも、祝祭の日の町並や遊園地の遊具など、鮮やかな色に目を奪われるのはなぜか、理由を探りそれを作品に引用したいです。

小木曽さんの想いが作品として形になりカラフルに、明るく存在している。

病院にあった作品を含め、下記のシリーズ名のクリプトクロム語源はギリシャ語で隠れた色素。日本名は「青色光受容体タンパク質」。朝に花が開き、夜になると花が閉じるといった作用を司る成分のことをいう。容易に視認することはできないけど、確実に存在している「ひそやかな存在感」を表現している。

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『何処でそれを失くしたのかこころあたりはありませんか』 “クリプトクロム” シリーズ 2016年制作 シナベニア・アクリル絵具  撮影:吉田和人

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『何処でそれを失くしたのかこころあたりはありませんか』 “クリプトクロム” シリーズ 2016年制作 シナベニア・アクリル絵具  撮影:吉田和人

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『何処でそれを失くしたのかこころあたりはありませんか』 “クリプトクロム” シリーズ 2016年制作 シナベニア・アクリル絵具  撮影:吉田和人

作品に変化があったスウェーデンでの2年間。

小木曽さんはもともと、ペインティング作品を制作していた。その際に絵を描く支持体も自分で木を組み、制作していたそう。ターニングポイントとなったのは2005年。これまで、背景を含めた四角い画面内での作品作りをしていたが、少しづつ個体のモチーフに焦点をあて、四角い枠を取払い、壁を背景としてモチーフをレイアウトするインスタレーション作品へ以降し始める。

そして、アーティストレジデンスプログラムで2007年からの2年間、スウェーデンへ行ったことが次のきっかけになった。スウェーデン人にとっては普通の日常風景や自然が、来訪者の自分には新鮮に映り、日々観察しドローイングを繰り返した。この頃から作品に自然のモチーフから引用される事が多くなった。クリプトクロムはスウェーデンで帰り間際に制作していた作品だという。

クリプトクロムでも分かるように、小木曽さんの作品名は一つ一つの意味が興味深い。

「自分と他者との唯一の共通点が言葉だから。」

という小木曽さん。表現を具現化した際、ひとに伝える為にベストだと思う言葉を何度も深く考えるそうだ。いくつか作品を紹介しよう。

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『森へはいる』”深海の庭”シリーズ   2010年制作 シナベニア・アクリル絵具 撮影:ただ(ゆかい)

作品タイトルが「深海の庭」というどこにもない場所。スウェーデンの風景スケッチをもとに制作。既存の風景の断片を使って、未知の風景として再構成する作品。

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『花密標識/Nectar guide』 2010年制作  シナベニア・アクリル絵具  撮影:ただ(ゆかい)

花蜜標識(ネクターガイド)は、花弁にある印のこと。この印が紫外線に反射することで、蜜の在処を視覚的に昆虫は認識できる。人間には見る事の出来ないサインだが、それも人が花に心惹かれる理由なのかも?と問う。

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表裏一体』 2015年制作  シナベニア・アクリル絵具 撮影:吉田尚人

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『同音異義語』 2015年制作 シナベニア・アクリル絵具 撮影:吉田尚人

同音異義語とは、橋と箸。雨と飴のように同じ音だけど、違う意味がある言葉。これまでの壁にかける作品ではなく、表裏が見える作品を発表した。裏と表が持つ意味を考えさせられる作品。

『自然怪盗』2015年制作 シナベニア・アクリル絵具

自然怪盗は新潟に移り住んでからの作品。雪で埋もれていた景色が、雪解けにより表出する。消失と出現で改めて意識する「存在感」を根のない樹に置き換え制作。雪解けの「解凍」と喪失の「怪盗」のダブルミーニング。

「地(じ)と図の関係性が、やっと準備ができてきた。」という小木曽さん。「自然怪盗」の作品に見られるモチーフ表面の彫刻刀で掘られた筆致がそれを意味する。長い時間をかけ、これまでの作風が交わって自分の表現を作品に落とし込んだ。本当に作品そのものが小木曽さんの人柄を表していると感じた。

そして、私が小木曽さんの作品に魅せられた理由がわかった。

人に、自然に、寄り添う小木曽さんの作品は時間が止まる感覚を持つ。人は不安を抱えて生きてる。人生は楽しいこと、苦しいこと、悲しいことの繰り返しだ。今を生きる自分がどうしてここに居て、これからどこに行けばいいのか。それはきっと前に進むしかないのだから、光の見える方向へ進む。私は、そんなメッセージを受け取った。

 

kikite & kakite by kakiuchi naomi


小木曽 瑞枝 OGISO MIZUE

1971年東京生まれ。’94年日本大学芸術学部美術学科卒業。’96年東京芸術大学大学院修了。’07年平成19年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてスウェーデンに滞在。風景の観察を通じ、独自の視点で物語性を構築し、既視感と未知感の狭間にあるような世界観を平面や立体、インスタレーションなどの作品として発表。パブリックアート・コミッションワーク多数。

個展(抜粋)
2016「何処でそれを失くしたのかこころあたりはありませんか?」Galleryみつけ (新潟)
2015「自然怪盗」switch point (東京)
2015「前左右後」新潟絵屋(新潟)
2013「Chryptochrome/クリプトクロム」Circle gallery(東京)
2013「Life in art #9 日々観光2013」IDEE  無印良品MUJI新宿/Café & Meal MUJI新宿(東京)
2012「左見右見」Hasu no hana cafe(東京)
2011「左見右見」GALLERY BOX/横浜ベイクオーター (横浜)
2010「花蜜標識/ネクターガイド」TRAUMARIS/SPACE(東京)
2010「The garden of deep sea」UTRECHT/NOW IDeA (東京)
2008「Empty」ギャラリー54 (ヨーテボリ・スウェーデン)
2002「Project N 12」 東京オペラシティアートギャラリー(東京)

グループ展(抜粋)
2015「PARC 4 : Open studio」チ・カ・ホ(札幌駅前通地下歩行空間)(北海道)
2012「OVER THE RAINBOW 虹の彼方」府中市美術館(東京)
2010「BEGINNING! BEGINNING!」SUNDAY ISSUE(東京)
2010「ポーラミュージアムアネックス展2010-祝祭-」ポーラミュージアムアネックス(東京)
2010「Last temptation」Gallery Co-Lab(コペンハーゲン・デンマーク)
2009「ヨーテボリ・アートビエンナーレ・サテライト」Konstepidemin Gallery(ヨーテボリ、スウェーデン)
2009「Get Set」Virserums Art Museum(ヴィルセルム・スウェーデン)
2008「Anonymous」Konstepidemin Gallery(ヨーテボリ・スウェーデン)
2008「Get Set」Studio44(ストックホルム・スウェーデン)
2008「Here I never wander alone」Gallery Co-Lab(コペンハーゲン・デンマーク)




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