【新連載】 アートがビジネスにくれるもの vol.1「ゼロから、未来を創るのがビジネスとアート」スマイルズ代表 遠山正道

PLART編集部 2017.5.15
SERIES

5月15日号

連載「アートがビジネスにくれるもの」とは?

 

昔から、あこがれのビジネスマンには、アート好きな人が多かった。

その共通点はなんだろう?

それは、「人と違う視点を持っていること」ではなかろうか。

ゼロから生まれてくるアートが好きで、そして、自分も新しい価値を創る。

未開拓のシーンに挑戦するビジネスマンに憧れを持ち、少しでも近づきたくて、僕らは働く。

その人にはなれないけど、アートを通して同じ視点を取り入れる事は出来るかも?

アートには「新しい価値を生み出すヒント」がきっと、あるから。


連載の初回は、アート×ビジネスをまさに表現している事業を手掛けるスマイルズ代表 遠山正道さんにお話を伺った。

 

私にとってビジネスはアートと似ています。それは、まだ自分も誰も知らない、何か分からないものを表現していく様な行為です。おぼろげなものを言語化したり、それを人と共有したり、周りを巻き込んで、創り上げていくものです」

Soup Stock Tokyoの創業者であり、ネクタイブランドのgiraffe、セレクトリサイクルショップのPASS THE BATON、新しいファミリーレストラン100本のスプーンなどの多彩な事業を展開する株式会社スマイルズの遠山正道社長。

それぞれの事業にいったいどんな共通点があるのかは、外からでは見えてこない。

それは、これらの事業は他でもない遠山さんやスマイルズ自身の内なる想いやひらめき、「形の見えないもの」からスタートしているからだ。

「アートがビジネスにくれるもの」

感性や本能から始まるアートの世界と、合理的に実利を上げることを求められるビジネスの世界を繋ぐ、遠山さんの中の共通項とはなんだろうか。

 

本能的な欲求から、ビジネスをはじめたい。

アートはビジネスではないけれど、ビジネスはアートに似ている。

これは、遠山さんの言葉。

遠山さんやスマイルズにとってのビジネスは、形がどんなのかも分からない物を徐々に言語化したり、視覚化し、創り上げて、世の中に出す一連のプロセスだ。

遠山さん曰く、チームで進めるビジネスで一番楽しめる部分が着想段階だ。

 

「はじめに思いつく時に、周りの人と、「こうしたら面白いよね」「これ秘密ね」なんてときめきがありますよね。あの時が一番面白いですね」

世の中の多くの企業は、事業のスタートラインでマーケティングだとか、市場環境など、理由が外にある。こうすれば上手くいく、こうすれば売れると考える…。

ところが、遠山さんはビジネスの着想の理由が、自分たちの心の内側であればあるほど、良いと考えている。

「ビジネスの七割は成功しないものだと思うんです。もしもうまくいかない時に、社内の会議で追求されたり、会社全体に迷惑かけることがあるかもしれません。そんな時に『どうしても、何が起きても、自分がこれをやってやるんだ』って気持ちがあることが一番だと思うんです」

 

そもそも、今の世の中は供給過多。

売ることに対してのハードルが高いこの時代でブランドやサービスを続ける際、自分の心の外に理由があると、ビジネスで起こる困難の壁を越えていくことはできない。

「いつの間にか機能とか、値段とか、売上とか、分かりやすいところに収束していってしまい、上手くいかない都合の良い理由だけが残るんです。それでは責任を持って取り組むことができません」

遠山さんが大切にしたいのは、何かあった時に自分で逃げ道を作らないためであり、意志の決定で迷いが生じた時に、原点に立ち返るための「自分事」だ。

そして、この在り方こそが、遠山さんがアートとビジネスが似ていると思う共通点だ。

では、全てが自分事=ひとりよがりに近くなるのだろうか。

スマイルズや遠山さんが考えるビジネスの手法は、決してそうでうはない。

 

自分たちが素直にやりたいことで、お客さんにも喜んでもらうことが大事

「儲かりそうとか、誰かのマネをしてカッコイイとか、そういった理由でビジネスを始めることはしません」

自分たちの内側からビジネスをスタートするべきと話す遠山さん。

必ずしもマーケットを無視するのかと言えば、そんな事はない。

投げ込む責任みたいなものもあります例えば、デートに誘う時だってそうでしょう?」と遠山さんはチャーミングに例えた。

「まず自分たちが好きでやりたくて始めて、どうやったら喜んでくれるか考え、それが最終的にお客さんの笑顔にまで辿り着く、それを大切にしています

Soup Stock Tokyoのオープン時もそう。まず自分がこの事業をやりたくて、スープのある一日を思い描き、それを一人で壁打ちして企画書に落とし込み、始めた。そしてその事業は世の中の共感を受けて、改善を繰り返しながら今も着々と世の中に染み渡っている。

 

「今はビジネスも経済も、あまりにも複雑になって、あらゆるシステムばかりが肥大化していますよね。皆、この複雑さの中であえて立ち位置を決め、無理やり何かをひねり出そうとしている様に感じます。でも私たちが考えるビジネスは単純な方程式みたいなものでできているんです」

自分の着想から始めて、物が売れて共感が広がり、そこでさらにコミュニケーションがたくさん生まれ、『これ、いいね!』なんて言われて売れていく。例えば、ミュージシャンなら、自分で作曲し、路上でそれを唄い、曲を聴いてくれた誰かが喜んでくれて、共感してもらえたら喜びややりがいはひとしおだ。

人間のごく自然な、創造することや共感を生むことへの本能的な「欲求」だ。

会社をMBOした際に、会社に見立てた丸しかないサイコロを遠山さんが撮影した写真

 

ビジネスをする上では、「やりたいということ」、「必然性」、「意義」、「なかったという価値」の4つの要素を大切にするスマイルズ。これとは別に、持ち出しのリスクが少ない事もビジネスをする上では大事な条件だと遠山さんは話す。

「ビジネスの額が大きくなると、どんどんつまんない方向になって、やってるのかやらされてるのか、どっち付かずの物になり、そこに魂も愛情も無いような、数字合わせだけのものになります。それこそが、事業の本当のリスクだと思います」

スマイルズでは、社会にスモールビジネスを増やし『世の中の体温を上げる』ことをビジョンとしている。

スモールビジネスが集まり、やがて村になり、お金ではない、信頼で繋がる価値が生まれれば、お金を稼ぐこと以上の価値になる、と遠山さんは話す。

 

「スマイルズのある1日」遠山さんが描いた事業計画書

 

アートは音楽と同じように直感的なもの。その効用を得るには…?

 

アートのクリエイションとも似た、人間の根源的な欲求から生みだされるスマイルズのビジネス。

遠山さんに、ビジネスへのアートの取り入れ方について聞いてみた。

「アートは音楽みたいなものですよね。こっちから強制的に取り入れましょうと言ってすぐ出来るものではないと思いますし、興味を持つ人が持てば良いのではないでしょうか。ただ一つ、もっと世の中の人がアートに触れる機会を探ることは大事かもしれませんね」

それこそ、歴史的なアート作品や権威あるアート作品は、今までの既成の『事実』に塗り固められているので、取っ掛かりとしては難しい。その価値を本当に理解しようとすれば、ルネサンスまで遡って勉強したりしなければならない。

「それに対して、現代アートでは『事実がこうだった』、なんて断定する必要がなく、全ての解釈が受けての自由です。現代アートも見えない恐れの様な空気があり臆する人もいるでしょうが、そんな必要はないんです」

遠山さんは、まず肩肘はらずに自分が買えるアートから購入してみることを勧める。最低限の現代アートに対する知識さえあるのであれば、まず買ってみる。アート作品に対する作家の想いもあるのと同時に、私たちがアートを自由に見る権利もある。

「アートってお金のある成功者の趣味みたいな物でしょって雰囲気があるけど、お金がない人が見に来たり、買ってる方が格好いいですよね。『カネないんだけど好きなんだよね。』の方が誠実な気がします」

遠山さん自身、会社の業績が芳しくなく辛い時にこそ、アートを購入してきた経験がある。

「スマイルズのギャラリーコレクションは社員のみんなが共有出来る作品を選びます。アート作品がきっかけになり共通の話題や関心ができたりすることが楽しいですよね。デビット・ホックニーの作品を再現したサンドウィッチ屋なんていいよね。という様な会話が社内で立ち上がったりしちゃうんです。こうすると他にはない企業、独自のスタイルができ上がったりするのかもしれませんね」

 

サンドウィッチ屋のアイディアの源泉
デビット・ホックニーの作品

 

アートがビジネスに与えてくれる、不確実性。

 

飽和状態の現代消費社会おいて、アートのようなビジネスモデルのコンテクスト化は、合理的に考えても有効な考え方になり得る。でも、大切なのは、心から納得して世の中の役に立つ様な価値を自分のビジネスに重ねて創造していくこと

もし今は出口が見えていなくても、「自分がやりたい」の先に意外なゴールが待ち受けるのを楽しむのも、遠山さん流のビジネスの面白さなのかもしれない。

 

Ryan Gander And what if no one believes this truth? 岩井優 ”Bottle/Body”(from “Mutation of the dead end)
壁に飾られている水着は、
1920年代の「ジャンセン(Jantzen)」のもの。

 

 

スマイルズ社内のギャラリーには、多くのアート作品が並ぶ。

kakite : BrightLogg,Inc./photo by BrightLogg,Inc. /EDIT by PLART


遠山正道/MASAMICHI TOYAMA

株式会社スマイルズ 代表取締役社長

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。


 



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