【連載】アートのある暮らしvol.8 アートを通じてコミュニティの実験をする家。

PLART編集部 2017.7.15
SERIES

7月15日号

連載 アートのある暮らしとは?
日本のアートには3つの壁があります。
「心の壁」アートって、なんだか難しい。価値がわからない。
「家の壁」飾れる壁がない。どうやって飾るかわからない。
「財布の壁」アートは高くて買えない。買えるアートがわからない。
そんな3つの壁を感じることなく、アートのある暮らしを素敵に送ってらっしゃるお家を取材します。

 

「住み開き」とは生活の場を、他の人へも開放しパブリック化させること。

新たなコミュニケーションの場として、また地域交流の場として注目されています。

今回の「アートのある暮らし」は、購入したマンションをリノベーションして、住み開きを行うKさん一家のお家へお邪魔しました。

 

自由にできない新築より、自分たちでリノベーションを

社宅を出るタイミングで、新しい家を探し始めたKさん夫婦。

初めこそ、都内の新築モデルルームを見て回るも、建具も壁紙も数種類からしか選べず自由度が低いため、都心で中古マンションを購入しリノベーションしながら家作りをしようと2人の意見が自然とまとまったと言います。

場所ごとに希望物件を整理する等、約1年をかけ物件を探し、古き良き風合いを持った外観のあるマンションに出会います。

「川も、桜もあって、周りには公園も多く、子育て環境としては良い場所です。それに加え、時代の流れに敏感な面白い人が集まりやすい土地柄もあります。自分たちがここで何かをやろうと思った時に、色々な人を呼びやすい」

近年、中古物件を購入して自分たちのオリジナリティを出すため、リノベーションをしたいと考える人はたくさんいます。

ところが、自宅を開放して「住み開き」をしようと考える人はまだまだ少数派です。

なぜKさん夫婦は住み開きをしようと考えたのでしょう。

 

癒やしよりも、アイディアが生まれる場所

大学時代に芸術を専攻していた奥さまは、作品を制作し、自らギャラリーで展示した経験もあります。

奥さまは、『ギャラリーをわざわざ訪れるのはアートに興味がある人だけ。そもそもアートに興味がない人にも面白さを知ってもらいたい』そんな想いをずっと持っていたと話します。

「学生時代の作品「あっちむいてコーン」「てるてるコーン」」

「アートをもっと広めるために自分に何ができるか考えた時に、日常空間の中にアートがある場所やコミュニティを作れば、普段興味がない人も気軽にアートに触れることができるかもしれないと思いました。そんな想いが、住み開きに影響しているのかもしれません」

 

 

Kさん夫婦は、ギャラリーやワークショップを実施するにしても、敷居をあげすぎずにアートやカルチャーを気軽に感じられるような空気作りを心がけています。アートを見る目的でギャラリーにいくのも良いのですが、ホームパーティ感覚で自然とアートと触れ合える場があれば良いなと思っています。

自分たちが自然に面白いと思えることを、住み開きのイベントを通して周りの人に伝えたい。また、この場所に集った人同士が何かしら化学反応を起こせるようなコミュニティやネットワークを作りたいとKさんは話します。

「私が建築や空間の仕事、妻がアートディレクターと、ある意味常にアイディアを求められる仕事をしています。そのため、今はまだ、家に癒やしやくつろぎを求めていません。家を出入りする色々な人たちも私たちも、お互いに刺激を受けて新しいものやアイディアが生まれるような場所にしたいと思っています

 

生活の中に溶け込むようにアートを楽しむ

住み開きを考え始めた時は、単純にレンタルギャラリーをする発想で1室を貸し出す予定でした。

ところが、設計を依頼していた建築家に『生活空間を可変的に使える方が、使い方に広がりがあり面白い』とアドバイスを受け、住み開きする空間と実際にKさん夫婦が暮らす空間を分けない、キッチンを中心としたL字レイアウトの空間が出来上がりました。

そんなKさんの家の中には、玄関に飾られたアート作品から始まり、美智子さんの作品や娘さんの絵、タイルを用いて描かれた模様など、アートがさり気なく家に溶け込むように飾られていました。

中でも、目を引くのがリビングにあるカーテン。奥さまが昔から大好きなアーティスト、植田志保さんの作品。

わざわざ大阪にまで出向き制作依頼をし、家の柿落としとして開いたイベントにてライブペインティングをしてもらったそうです。

 

(写真:オーナー提供)

「植田志保さんに描いてもらったカーテン」

「有名な絵を買って額縁にいれるような改まった飾り方よりも、生活の一部にアートを溶け込ませる感じが好きです。カーテンもそうだし、本棚の一部に作品が飾ってあったり、壁紙に取り入れてみたり…。」

リビングの壁には娘の杏ちゃんの絵も飾られています。杏ちゃんは額に入った自分の絵が嬉しいらしく「これ杏ちゃんが書いたの!」と嬉しそうに訪れる人に伝えるそうです。子供の絵もしまい込んでしまったらそれで終わり。
ちょっと視点を変えて飾ってみるだけでアートのある空間に早変わりします。

Kさん夫婦のそんなアートとの触れ合い方はとても自然です。

住み開きで深まるコミュニティづくりやネットワークづくり

これまでは、ギャラリーやワークショップ、お料理教室や写真撮影、さらにドラマの撮影にも使われたこともあります。

「企業のインターン生の下宿先として使われたり、フラダンス教室の依頼もありました。キッチンや大きな机は全て動くようになっているので広い空間としての使用にも対応できるので、色々な用途に使うことができます。でも、このキッチンとリビングの机は部屋の中で作り込んで溶接したので、ドアより大きくて、もう部屋から出せないんですけどね()

さらに、住み開きがもたらすメリットをKさんはこう話します。

「住み開きは、利用がきっかけで普段出会えないような人と交流が増えました。また、人に貸すタイミングで掃除をして部屋がきれいになることも利点です、笑。」

 

『海外ではホームパーティに音楽家や芸術家を呼ぶことはよくあるけど日本ではあまりないので、生活の空間でアートを楽しめる空間があるのは良い』とアーティストからも評価されているとのこと。

今後も、日常でアートを身近に感じるきっかけとなる実験活動は続けていく方針。

「あっちむいてコーン」

2人とも地方出身で、今後は、地元や地方に新しいコミュニティの場を作りたいという想いも抱いています。アートや地域の情報、物産品を集めたり、カフェでお茶できたり、泊まることができたり…。あらゆる機能がごちゃまぜになった空間で、面白そうな人と出会って刺激を受けられる場所が地方にも沢山あれば楽しいなと思っています」

Kさん一家の暮らしの先は今後も拡がっていくようです。

住み開きのマンションは「自分たちの暮らしを通した実験室です」と話すKさん。

実験室は、アーティストやワークショップ企画者が試験的に展示・企画するカジュアルな場であるという意味。また、Kさんが将来考える新たなコミュニティの場づくりの試験的な取り組みという意味、など様々な意味が込められているようです。

新しい人と出逢いたいのであれば、人が集まる場所に出向くのが普通ですが、仕事関係だけではなかなか出逢えない人と、家という空間でより深く関係を築くことのできる住み開きは、新しい空間の使い方であり、新しい人間関係の作り方でもあります

 

カウンターをDIYし、子どもの机を。2人並んで絵を書いたり、紙を切ったりと制作中。

プライベートも仕事も育児も、家の壁をなくし、生活を存分に楽しんでいるように見えるKさん夫婦。

自分たちの住まい作りを実験の場として、試行錯誤を繰り返して作り上げるコミュニティはどんなものになるのか、Kさん一家が作り上げる『本番』の住まい作りが始まります。

 

 

kakite : Hanako Kinoshita /photo by BrightLogg,Inc./EDIT by PLART & BrightLogg,Inc.


THANK YOU A LOT OF  Kさんファミリー

 

 

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