サカナクション・山口一郎×スマイルズ代表・遠山正道 「体験型音楽表現の先に見える世界」MEET@ART

PLART編集部 2017.11.15
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11月15日号

 

2017年10月下旬、東京・中目黒高架下にあるレストラン「PAVILION(パビリオン)」で1周年を記念したイベント「MEET@ART」が行われた。

「PAVILION」は遠山正道が代表を務めるスマイルズが手がけるアートに触れ、愛とアートをテーマに食事が楽しめる人と人との距離を近づける場所だ。名和晃平さんや西野達さんなど名だたるアーティストの作品を鑑賞することが出来る。 

今回のMEETATはアートで人に、出逢えるかをテーマにし、3組のアーティストの作品が空間を彩った。

その中で、サカナクションのボーカル・山口一郎が手掛けたインスタレーション「ANDON(アンドン)」は、PAVILIONの50メートルにもおよぶ回廊に常設展示となる。高架を通過する電車の音に反応して、鮮やかな光を放っていた。

常設展示のお披露目を記念した会で、ミュージシャン・山口一郎とスマイルズ代表の遠山正道の対談が行われた。

この場所でなぜ「ANDON」を製作したのか? 

山口一郎にとっての音楽とは? これから向かう場所とは?

 

音楽的目線で美しくリデザインする——

遠山:今回の作品「ANDON」が生まれたきっかけってなんだったんですか?

山口:普段生活しているときに、邪魔な音ってあるじゃないですか。例えば、冷蔵庫が「ウー」って鳴る音とか、電車の高架の音とか、隣の家の部屋から聞こえてくる住民の声とかね。でも今の社会は遮音したり、重音したりしてその邪魔な音をかき消しているんですよね。だけど、邪魔だと思われている音を、音楽目線でリデザインできないかと考えたことがきっかけです。

遠山:なるほどね。

山口:この場所は高架下なので、ご飯を食べてると電車の音が聞こえるじゃないですか。でも、その前に入り口で電車の音に光で反応する提灯を体験していると、電車が通るたびに、「外で提灯が光ってる」という意識が植え付けられるので、ある種の体験に変わると考えました。騒音が体験に変わる。それって音楽的だなって思うんです。無駄なものが美しいとか、必要になるということが。

遠山:そもそも、この作品は騒音がなければ成立しないものであって、騒音という邪魔であったはずのものが、美しいものを現実に生みだしている。

山口:音楽って目では見えないし、手では触れられないものなので、生きていく上では、食べ物と比べると全然必要ないものなんです。時として自分にとって大切な歌が騒音だと思われることもあるし。だから、側面として騒音と音楽が同じ存在だとすると、それをどう表現するのか。最終的に、電車の音を演出するライブ体験を作りたいと考えたんです。

遠山:だから、あの作品は“曲”でもあるわけなんですね。

山口:そうなんです。例えば電車の音がメロディーだとして、提灯がアレンジなんですよ。そこに言葉が加わると歌になるんです。作曲は電車で、アレンジは提灯を作ってくれたヘアメイクアップ・アーティストの根本亜沙美さんなんです。

遠山:今後は「ANDON」に歌詞となる部分も作る?

山口:ここに言葉が付くとさらに歌になっていくのかなと思っています。これから、提灯が光ったときだけ文字が浮かんだりして、新しい言葉を並べてみようかなと思っています。色んな人が、そこで言葉を書くことによって、色んな人が作詞した「ANDON」になりますよね。

 

常に「客観視している自分」と「没頭している自分」がいる——

遠山:「そもそも、僕たちが出会ったのは2年くらい前。インテリアデザイナー Wanderwall  片山正通さんに紹介してもらったのがきっかけでしたね」

山口さんとの出会いを楽しそうに紹介する遠山さんは、思い出ついでにもう一つのエピソードを話し始めた。

それは遠山さんが雑誌「ケトル」でサカナクションの曲「新宝島」について執筆したコラムの話だった。

コラムを読み上げる遠山さん

土曜日の遅い朝、目が覚めたら部屋に誰かがいた。

気配があってその人をみたんだけど、もちろん誰もいるはずはない。

その気配と付き合いながら一カ月が経った頃、僕は布団に入ったまま計画した行動に打って出た。僕が一方的に様子を伺うのではなく、彼(気配)がこちらを気にさせるという作戦である。

僕はサカナクションの新宝島をちょっと大きめなボリュームでかけたんだ。

曲が始まるやいなやもうサビで山口一郎が淡白にシャウトしている。僕はもういきなり、僕の毛穴や心臓がその曲を受け止めている。ビリビリとしている。そして同時に彼の息づかいをかすかに感じ取る。

そうするとその彼の顔がふっとあがり彼が曲を感じているのを感じ取れた。新宝島によって私とその彼は繋がることができた。それから彼は姿を消した。(コラム部分要約)

遠山:このコラムを書いた後、一郎くんに向けてインスタで「これはもはや山口一郎への私からのラブレターであろう。一郎くん、曲を聴いていて僕はこのように感じたんだよ」と、メッセージを送ったんですね。そしたら一郎くんから、「僕も部屋でひとり、その人影を意識していつも音楽と向き合っています。遠山さん、感謝です」って返ってきた。めっちゃ、かっこよくない? 想像と全然違ったところから返事が来て、「本当に素敵だな!」って思ったんですよね。ちなみに、このやりとり覚えてます?

山口:覚えてますよ。遠山さんからメッセージが来たとき、ちょうど作詞中だったんですよ。作詞中だったので、ちょっとポエム的な返信になったんだと思います(笑)でも、それだけじゃなくて、僕は外の人たちが求めるもの、つまり分かりやすいとか理解しやすいものと、美しくて難しいもの、つまり自分が好きだと思うものの、2つのバランス感覚を持っています。

僕は楽曲を作っているときは常に「客観視している自分」と「没頭している自分」がいるので、自分のなかに2人いるから、そう返信したのかもしれません。

 

音楽にすれば理解してもらえるんじゃないか——

図らずも遠山さんの「気配」を2つのバランスとして感じ取っていた山口さん。彼の「美しくて難しいもの」とは一体、何を意味しているのだろう。話は山口さんの幼少時代の話へと続いていく。

山口:僕は昭和文学や俳句や短歌などから文学に入っていきました。小学校のころは難しくて意味が分からなかったんですけど、中学校で読み返すと、その文学の美しい言葉に感動しました。

遠山:そのころに文学や詩を通じて、自分が感動するってことを覚えた。

山口:そうですね。だけどクラスの友達にその美しさを説明しても、誰も理解してくれないんです。どうすればこの美しさを理解してもらえるかと考えていました。ある時、国語の授業では、「走れメロス」を詰まりながら朗読する同級生が休み時間になると、光GENJIの「ガラスの十代」を何も見ずにアカペラで歌ってたんです。

「国語の朗読は苦手なのに、なんで歌になると言葉を覚えれるんだろう?」って思って、それで、「僕が思う美しい言葉を音楽にすれば理解してもらえるんじゃないか」って感じたことがきっかけで音楽を始めたんです。

遠山:えー! そうだったんだ(驚)

文学の感動を音楽にのせて表現したいってなったんですね。

山口:それから「音楽ってなんだろう?」って興味を持ち始めました。

父親からよくフォークソングを聴かされていましたが、注意深く聞いてみると、その歌詞はとても洗練されいて、短歌や俳句のように決められたメロディーや言葉の中で、ものすごい世界を表現していると知りました。「これはこれでしっかりとした文学なんだ」って、自分はどんどんフォークミュージックに傾倒していきました。音楽の入り口はそこでしたね。

遠山:その同級生に感謝しないとですね(笑)

山口:ホントですよね(笑)

山口:僕は常に右足と左足の間には、1本の線が引いてあって、線の左側がマジョリティ(多数派)で、右側がマイノリティ(少数派)決してその線をまたぎ切らず、またいだ状態で重心移動をするってことが僕の1つの大義というか、音楽を制作する上のコンセプトなんです。

遠山:左(マジョリティ)に行き過ぎちゃって、コンセプトが分かりづらくなっちゃったことってあるんですか?

山口:もちろんありますよ。でも、ある種、音楽ってビジネスでもあるから、タイアップやシングルでリリースする場合は沢山の人に聴いてもらえるチャンスなので、外に向けてのアプローチを意識しますね。でもアルバムやB面の曲だと、内側に向いたものに行くというか…。

遠山:「内側に向く」ってどんなきっかけから生まれるんですか?

山口:初期衝動で生まれるものって、たいてい僕の言う内側、難しい方なんですよ。反対に、理論を駆使して作られるものは外側なんだけど、その方向に向きすぎると「それって僕がやらなくても誰かがやってるよね」って思うので、引いた線に対して、僕はどう重心移動するかっていう葛藤がありますね。

 

ロックバンドが抱く夢もアップデートしなきゃいけない——

マジョリティとマイノリティ。相反するイメージを常に持ちながら楽曲製作を続ける山口さん。ミュージシャンとして走り続けるうち、音楽で感動する気持ちが薄れてきたという。

山口:音楽だけの知識や感動だと、だんだんと感動できなくなるんです。だから、アートやファッションなど別のカルチャーの人たちと結びつくことで、感動の種類が増えてくるんです。残念ながらミュージシャンって表現する場所がCDとライブしかないんです。ロックバンドはずっとそうなんですよね。でも僕はテクノロジーの進化やツールの発達によって、ロックバンドが抱く夢もアップデートしなきゃいけないと思ってるんです。

遠山:とっても響く言葉ですね。この言葉ってどんな仕事でも当てはまりますね。

山口:だから、エンタテインメント側にいるミュージシャンが、今回の作品「ANDON」を展示することで、アートに興味がない人や、このお店のコンセプトを知らなかった人が、この場所を体験すると、なにかが変わってくるんじゃないかな。それって、いい曲を聴いて、それに感動して人の人生を変えることと同じことだと思うんです。僕は体験型の音楽表現をよりアップデートしていきたいんです。

遠山:音楽に色んな人を引き込みたいから表現の範囲を広げるってこともあるかもしれないけど、音楽にたどり着かなくても一郎くんが考えるクリエイションに共感してくれて、受け取るエリアに広がってくることのほうが面白いかもしれないですね。

山口:サカナクションを好きになってくれた人は、サカナクションを卒業していってほしいんです。サカナクションが好きになって、写真が好きになったり、アートが好きになったりして、次に聞く音楽だったり新しいものにどんどん出会って欲しいんですよね。僕らは通訳でいたいというか、そういう風になれたらいいなと思っています。その代わり、サカナクションに興味がある人の血を濃くしていく作業はしていきたい。

遠山:「血を濃くする」ってファンとの関係性ってこと?

山口:そうですね。今はファンとミュージシャンの関係だけど、僕はサポーターとミュージシャンみたいな関係でいたいと思ってるです。「山口さん、写真撮ってください」っていう層を増やしたいんじゃなくて、「この前の展示でやった作品はどういう意味があるんですか」って言ってくれる層が増えてくると、お互いでディスカッションが生まれるじゃないですか。結果的にそれは僕のためにもなるから。応援してくれてるみなさんに対しての音楽に影響を与えていきたいことが1つの目的でもありますしね

 

音楽の旗の下に、新しいものに向かい進んでいける——

「音楽」はミュージシャンをはじめ、様々な職業やカルチャーが積み重なってこそ成り立つ。その意識こそ、新しい表現に挑むチャンスだと山口さんは考える。

山口:僕は発起人だと思っています。「こうやりたい」とか「これやったら面白い」とか言って、それを「やりたい!」って言ってくれる人が周りにいるかいないかだけだと思います。僕たちは音楽の旗の下に、様々な職種やカルチャーを持った人と一緒に新しいものに向かい進んでいける。きっとそれは狭い音楽の中だけで作られたものじゃなく、今までとは違う、新しいカルチャーが生まれるチャンスなんじゃないかな

遠山:音楽を介して、アートや文学で新しいカルチャーが生まれるってことですよね。

山口:遠山さんは今回の企画で僕に「この空間を表現してよ」って言ってくれたわけじゃないですか。「ANDON」作品の提灯はヘアメイクアップ・アーティストの根本亜沙美さんに作ってもらいました。普段は髪をセットすることで音楽に関わる人が、提灯を作るというチャレンジにより、新しい表現が生まれたわけだから。

 

雑巾を絞るように制作する。

遠山:一郎くんと出会う前に一郎くんがラジオで「グッドバイ」の制作の事を泣きながら話してたのを聞いて、すごく辛かったんだろうな、と思ってました。

山口:その頃の楽曲作りは乾いた雑巾を絞っている感じがしたんですよ。絞ってるうちに手に汗がたれて、その汗が雑巾に伝わって、汗が一滴流れて、それが音楽になっているみたいな感覚だったんです。だけど、片山さんに会ってからはどう雑巾を湿らすか、何で濡らすかって考え方が変わりましたモノの見方だったりを変えてくれたのは片山さんのおかげです。片山さんがいなかったら、僕は音楽やめてたと思います。

ある意味手詰まりだったんです。何をどう表現していいか分からなっていたときに、片山さんと出会って、遠山さんをはじめ、沢山の人と繋げてくれました。おかげで自分の音楽の表現の幅が広がりました。

遠山:2年前に一郎くんと初めて会ったときに、「北海道から出てきて、ずっと曲作りをしているから部屋にこもって外に全然出てないんですよ」と言ってていて、「じゃあ、もっと外に引きずり出そうよ」って片山さんと言ったのを覚えてます。で、今日に繋がってる(笑)本当にありがとう。

 

最後に・・・

今回のトークイベント後、山口さんにコメントを頂いた。

ミュージシャンがアートをテーマにした空間で作品を創作する理由……それは、もっと沢山の人に音楽の魅力を知ってもらうことひと昔とは違い100、200万枚のヒットを残せない現代だ。そんな中、音楽業界に爪痕を残すこととは何か?と問う。

「遥か向こうにすごい人が居ても自分ごとにならないけど、教室にいるすごい奴が「いい」って言ってる曲は聴いてみたくなるじゃないですか。僕は雲の上の存在になりたい訳じゃない。たくさんの人には無理かもしれないけど、今の自分たちの音楽を好きでいてくれる人たちに届ける為に、届けれるパイを増やすことが今の活動目的です。音楽の魅力を知ってもらうことが出来たら嬉しいです

今回のANDONの創作もその一環であり、今後に繋がっていく山口さんの未来図なのであろう。またミュージシャンの線を超え、様々な活動をされている山口さんの現在、アンテナに引っかかっているものの一つは?

「テクノロジーの進化は、今の時代にしかない事だと思ってます。テクノロジーが進化したら、感動の種類が増えますよね。例えば….AIの犬ロボットの性能を確かめるために、研究者に蹴られた動画を見て、犬がかわいそう。って思ったんです。ロボットに対して、感じるこの感情はなんだろう?と疑問を持ちました。テクノロジーの進化で、新しい言葉や感情が生まれることがあると思います」

 

***

山口さんの生み出す音楽が、多くの人の心に届く理由。それは自分の言葉だけを必死に届けても仕方がなく、届けたい人に届く言葉(方法)で届けること。ただ、そこには「自分の言葉・アイデンティティ」がないと何も始まらない。

目の奥まで澄んだまっすぐな眼差しで興味のベクトルを多方向に向け、自分のフィルターを通し生み出す音と体験を。

ただ、真剣に。

 

kakite : Hiroyuki Funayose & Naomi Kakiuchi / photo by Yuba Hayashi / EDIT by PLART(Naomi Kakiuchi)

 


PAVILION

住所:東京都目黒区上目黒1-6-10 中目黒高架下

電話番号:03-6416-5868

営業時間:月〜金18:00〜26:00、土17:00〜26:00、日17:00〜23:00

定休日:無休(年末年始をのぞく)

座席数:70席(店内48席、テラス22席)

URL:http://www.pavilion-tokyo.com


 



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