建築とヒトをつなぐ“ハブ”になる【頭上建築 都築響子】

PLART編集部 2017.6.15
TOPICS

6月15日号

 

“頭上建築”という頭の上に建築模型をのせる独自のスタイルを確立し、「建築アイドル」「建築版さかなくん」「建築のゆるキャラ」などの愛称で親しまれている、都築響子さん。

今年東京藝術大学の建築科を卒業したばかりの彼女。

実は、高校卒業後の進路を建築科に定めたのは、大学の説明会で唯一居眠りしなかったから。そして、中でもトップの藝大・建築科を目指したきっかけは、予備校で先生に恋をしてしまったから…。

建築界に飛び込んだ“普通の女の子”は、なぜ自らを広告塔として“建築”を発信するようになったのか。また、建築を通してどのような未来を思い描いているのか──

 

“建築する”ことの意味

もともと建築家を目指していたわけではなく、藝大の建築科というエリート集団に飛び込んだ都築さん。建築に関する知識がゼロの状態からスタートした建築学生生活では、驚きと同時に発見も多かったという。

「まず大学の図書館で建築雑誌の写真を見ることから始めたんです。そこで初めてフランク・ゲーリー(※1)やザハ・ハディド(※2)のような曲線の建築に出会い、これが建築であり得てしまうんだということに衝撃を受けました。優秀な建築家が設計した建物は、人が建物に入っていくまでの“体験”を意識してつくられているんです。その建物の形一つ違うだけで、日々の空間体験の仕方が変えられる、そういうことができる建築って面白いなと思いました

(※1)フランク・ゲーリー:フランク・オーウェン・ゲーリー は、アメリカ合衆国のロサンゼルスを本拠地とする、カナダ・トロント出身の建築家。代表作には、ビルバオ・グッゲンハイム美術館(スペイン)・ウォルト・ディズニー・コンサートホール(ロサンゼルス)、日本では神戸にある巨大オブジェ「フィッシュ・ダンス」などが知られている。

(※2)ザハ・ハディド:イラク・バグダード出身、イギリス在住の建築家。 フランク・ゲーリーと並ぶ有名建築家。日本では2020年のオリンピックで名前が知られた。2016/3/31に他界。

 

ひとえに建築といっても日本で見かけるのは、型が決められたような代わり映えしない“箱もの”ばかり。世界には建物自体が観光の目玉となり国内外から人を呼び込めるような、自由で独創性にあふれた建築がある。またそれは、地域の人々の誇りになっている。

自身が“建築する”ことの意味を理解していく中で、日本にはまだまだその魅力や可能性を知らない人がたくさんいると都築さんは感じていく様になる。

 

建築界の内と外をつなぐ“仲介人”になる

建築科に在籍するということは、ある意味将来的に“建築家になる人”がたくさんまわりにいるということ。皆それぞれに得意なことがあって、もっとそれを知ってもらうべきなのに、周りに伝わっていないということにもどかしさを感じた。

「建築科の子たちはみんな何かに特化しているのに、純粋に好きでそれを突き詰めているから良い意味で魂胆がなくて、ある意味売り下手というか、自分の得意分野を見せるのがあまり上手ではなかったんです。私はその中に紛れ込んでしまった普通の子でしたが、ただ愛嬌があったり、サンバを踊ったりして目立っていたので、外から声をかけてもらいやすかった。自分に話が集まるにつれて、もしかしたら自分はみんなの“ハブ”になることが出来るんじゃないかなと気づいたんです

都築さんはインターカレッジのサンバサークルに入っていたが、たった一人のダンサーとして藝大の大学祭である藝祭のステージにも立つようになった。

外へと自ら出て行ったことで、いつの間にか「サンバダンサーといえば建築科のあの人」「明るくて楽しくて何かをつくれる人」というイメージがつくようになった

こうして自分でも予期せぬ“自己ブランディング”がされたことで、建築の魅力を言いたい、伝えたいという強い気持ちも次第に大きくなり、建築を外へと発信する“つなぎ役”としての役割をしっかりと意識するようになっていった。

 

“頭上建築”が可能にすること

本当はすごく力を持っていて、純粋に物づくりをしている建築周りの技術者たちを、どうしたらもっと活躍出来る場にもってくることができるのか。建築というそもそも可能性のあるものを、周りに広められるのか。

そんなことを考える日々の中で、自らの経験を活かせるPRの手段として“建築を擬人化する”ことを思いついたのだという。

「建築をPRしたい。と考えた時に、建築科の学生として2年やってきて、自分でまず出来ることと言えば模型を作ることだったんです。それと、サンバの衣装を作ること。サンバの衣装では頭に羽を一本つけるんですが、そうすると人ごみの中に入った時でも外から頭の上の羽が見えて私がいるのがわかるって言われたんですね。それにヒントを得て、目立つのならここしかないだろうと、頭に建築をのせました。(笑)頭の上に建築を建てるので、“頭上建築”。なんだか語呂もいいじゃない!ということで始まりました」

取材中の都築さんの頭の上には、色や内部の茶室までも忠実に再現した、岡倉天心(※3)設計の「六角堂」(※4)が誇らしげにのっていた。彼女の愛らしいキャラクターもあってか、まるで新しいファッションアイテムのようにも見えてくるから面白い…。

 

(※3)岡倉天心(おかくらてんしん):日本の思想家、文人。東京美術学校(現・東京藝術大学の前身の一つ)の設立に大きく貢献し、のち日本美術院を創設した。

(※4)六角堂(ろっかくどう):茨城県北茨城市大津町五浦(いづら)にある六角形建築物明治時代岡倉天心(岡倉覚三)が思索の場所として自ら設計した。

 

頭上建築にする建築を選ぶ基準としては、イベントの開催される場所に合わせて、その土地にゆかりのある建物をつくるのだという。

建物というのは日常で目にしているため、自然と愛着をもっているものなのだ。彼女の言葉に言い換えるならば「人の心に入っているもの」だからこそ、その土地の人が慣れ親しんだ建築を身につけることで、初めて会った人でも親近感をもってくれて、心を開いてもらいやすくなるという。

 

“頭上建築”はコミュニケーションツールとしても優れた機能を発揮する、秀逸なPRアイテムだと言えるだろう。

現在模型のパターンは8種類(東京アパートメント、新国立競技場、ヒカリエ、六角堂、PROTO、神戸ポートタワー、ホキ美術館、東京タワー)。

 

そしてまさに今、9種目となる内藤廣(※5)さんの「天心記念五浦美術館」(※6)を制作中とのこと。地形をよく読み取ってつくられた建物の造形と、梁がむき出しのダイナミックな内部構造が魅力だという。完成が楽しみだ。

 

(※5)内藤廣(ないとうひろし):日本の建築家。内藤廣建築設計事務所代表。東京大学名誉教授。

(※6)天心記念五浦美術館:福島県と茨城県の県境にある五浦の美術館。景勝の地で、すばらしい海岸線と屋がつながっている。

 

伝える努力をする大切さ

“頭上建築”を始めたばかりの頃は、とにかく街中を歩いたり、写真を撮ってSNSにあげたり、人が多く集まるイベントに顔を出したという。

そんな草の根活動を経て、次第に建築関連のイベントに呼ばれるようになり、そのキャッチーな容姿だけでなく一体どういう活動をしていて何を考えている人なのかを話せる場が増えていった。

都築さんは活動していく中で、人に“伝える”ことの難しさを知った

「例えば展示ひとつにしても、ただ図面引いて模型つくっても、一般の人に興味を持ってもらうってすごく難しいんですね。自分で展示を企画するときなんかは、図面や模型だけでなく、衣装だったりロゴやブロマイドをつくってみたり、余計なものをあえて足してみるんです。まず話を聞いてもらうためには、キャッチーとかポップでハッピーみたいなことがすごく大事だったりするんですよ。楽しそうにしていることって真剣に作っていることと同じくらい重要で、ちゃんと伝える努力をするということが何よりも大事だと思っています

 

相手の領分に入ることで、近づける。

 

伝えること、発信することに長けている都築さんだからこそ、聞いてみたいことがあった。

「建築にもアートにも言えるけれど、なぜかハードルが高いとか難しいと思われてしまうものに、どうしたら興味をもってもらえるのだろうか?」

そんな問いに、彼女はこう答えてくれた。

「これまでの活動を通して思うのは、相手が好きなものに寄せたほうが良いということです。例えば“頭上建築”は”建築”×”衣装”なので、建築に興味が無くても、アイドルが好きな人やファッションが好きな人も興味を持ってくれたりします。建築の手法で建築のことを伝えていては、相手が建築自体に興味がなければそこで終わってしまうんですね。だから、時には相手の領分に入ってみるのも大事なのかなと。他の人が興味のあるものと、自分の好きなものだったり見せたいものを掛け合わせてみる。相手の需要に合わせているふりをして建築を提出するみたいな…。それがコツですかね」

 

2年後には会社をおこしたい!

最後に、建築家としてだけでなくそれを広める活動をしていく中で、都築さんは一体どんな未来を思い描いているのか聞いてみた。

 

今の大きな目標は、まちづくりをする会社をつくることです。北茨城市で廃校になった小学校をアート施設にするという計画があることを偶然耳にして、卒業設計でアトリエにもなり宿泊施設にもなるという新しい施設の提案をしました。それがきっかけで、コーディネーターとして北茨城市のまちづくりに携わらせていただくことになったんです。ただ役所ではなかなかまちづくりだけを専門に動ける人がいないので、私自身が他の人を巻き込みやすくするためにも自分で会社をおこすことが大きな一歩になると思っています」

 

2年後にはその目標を達成すると断言した都築さん。

“頭上建築”というキャッチーな活動ばかり表立ってしまうが、実際彼女に会ってみると、建築の未来をしっかりと見据えながら新たな領域へと自らを高めていく、なんとも頼もしい女の子だった。

彼女の物事を俯瞰で見ることのできる力、そして柔軟な発想力はどこにいても強みになるだろう。

建築界の未来を背負って立つ、今後の彼女の動向から目が離せない。

 

 

kakite : Airi Kitabo /photo by BrightLogg,Inc./EDIT by PLART & BrightLogg,Inc.


 

都築響子/TSUDUKI KYOKO

東京藝術大学 美術学部 建築科 卒業。

アートワーク頭上建築や建築アイドルの活動を通して、”人々”と”建築”を近づけるため、建築界の広告塔を目指す。

茶室を作るワークショップ、壁紙のファッションショー、都市をジャックする街歩きイベントなど、建築と他分野を掛け合わせた企画の企画・コーディネートを行う。卒業設計で北茨城市旧富士ヶ丘小学校を舞台としたアートホテルの設計し、コーディネーターとして同市の街づくりに携わる。


 



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