行き交う人をつないだ歴史のある島で、アートを巡る【愛知県・佐久島】

PLART編集部 2017.8.15
TOPICS

8月15日号

 

愛知県三河湾に浮かぶ「佐久島(さくしま)」という島をご存知だろうか?

歴史があるのは島の地図で分かる。歩いて回れる島の土地に古墳、神社、お寺が至るところに点在する。

人がここに沢山の思いを込めて、豊作や海の安全を願い暮らしていたのだと見る事ができる。

アートプロジェクトに参加されてるアーティスト松岡徹さんが描かれた地図。

佐久島は江戸時代に、伊勢と江戸をつなぐ海上の交差点になっていた。

遠く昔から人が集う島だが過剰に人工的な手の加わってないので自然が大変に豊かだ。

潮の満ち引きのたび、岩で出来た島はグラデーションの岩肌を魅せ、砂浜にはムール貝の殻が細かく砕かれ、紫色に変えて魅せる。

表情が豊かなのは海だけではなく、山には四季折々の草花が咲き乱れる。

梅、桜、サザンカ、水仙、椿・・・どの季節に訪れても、見ごたえのある自然が待っていてくれる。

20年前からはじまったアートプロジェクト

愛知県西尾市に入る佐久島は西尾駅からバスで30分。

海が一望できる一色さかな広場の隣に船着き場があり、約25分で渡船できる。

島には西と東、2つの集落があり、それぞれの港に人と物を運んでいく。

東港に停泊中の船

20年前、国土庁の推薦でアートを通じた観光プロジェクトに佐久島は参入した。現在の「三河・佐久島アートプラン21」は2001年からスタートし今年で17年目になる。

「はじめの3年はただただ、信じる事しか出来ませんでしたよ」とお話を聞かせてくれたのは20年前からプロジェクトに関わっている「島を美しくする会」会長の鈴木さん。

鈴木さんは島で生まれ育ち、佐久島の東地区で民宿「さざなみ」を営なわれている。

島の将来を案じ、会を発足。アートプロジェクトに島の代表として参加された。

「20年前は今よりも、現代アートが意味の分からない代物でした。島の住人には特に。だけど、オンリーワンの島つくりにはたった一つしかないアートを用いる事は間違いではない、と思いました。本当に国も島も、実験的なスタートでしたね」

予算内で年々常設アート作品を増やし、長い時間をかけてコンテンツを整えてきた。

現在、アートの数は22。10月には、島外(一色さかな広場の隣)に23つ目の作品が完成する予定だ。

「佐久島アートピクニック」アートのスタンプラリーが楽しめる。

 

佐久島は小さな島ながらもアートと、歴史と、自然を楽しむ人たちで観光客数が年間10万人を突破してる。

乗り物で例えると、前輪は島の人。サイドに民間のアートディレクター。後輪は行政。

それぞれが自分たちの役割を持ち、同じ方向を向き走ることが大切です。役所の方は特に数年ごとに担当が変わられますから新しい担当者に目標と目的を共有して三者でとことん話ながらやっていってます。そして、アーティストの方には島の風景だからこそ体験できる作品にしてほしい、と伝えさせてもらってます」

おひるねハウス・南川祐輝

北のリボン・TAB

佐久島の秘密基地/アポロ・POINT(長岡勉+田中正洋)

星を想う場所・荒木由香里

島でしか出来ないコンテンツを体験してもらう

活性化例はアートだけではない。

西の地区には「黒壁集落」と呼ばれる地区があり、潮風に家壁がやられてしまわない様にタールを塗布している。そのタールを塗る作業を島外からのボランティアにワークショップとして参加してもらうのだ。

黒壁集落の路地

数時間の作業後は島で採れた梅で、梅スカッシュや、梅干し入りのおにぎりを振る舞う。

食材の梅は松岡徹さんの作品「佐久島のお庭」の庭に島の人たちが梅の木を植えて収穫したものを使っている。食を通して島の人とのつながりも感じられ、その後は散策をしてもらい、アートを観てまわる。

壁塗りでかいた汗も、海を見ながら食べた梅干しも、風のにおいも、参加してない自分でも目を閉じると想像でき、幸福感に包まれた。

佐久島でしか出来ない体験・思い出に皆、感動し価値を感じるのだ。

島へのリピーターが多いと聞いて納得した。

今後の予定は?と鈴木さんに尋ねると「夜に楽しめるアートをアーティストの方にお願いしたいと思ってます」と希望を答えてくれた。

 

当たり前すぎて、魅力に気づいてないこと

「島の住人は当たり前すぎて、島の魅力に気づいてなかったんです」と鈴木さんは言った。

「佐久島弘法巡り地図」

島には何もないわけではない。佐久島の歴史があり、独特の奉納太鼓や弘法巡り、そして豊かな自然も、海産物もある。

そこにいる人たちが魅力を知り、アピールすること。そして、佐久島の魅力をアーティストという違った視点を持ってる人たちが作品として表現する。

島の自然と歴史が生み出した風景と、この時代に生きている人たちが創る現代アートが、これからの島の未来をつなぐ。

***取材後記***

海沿いの道を島の端にあるアートを目指して自転車を漕いでいた。

潮の香りが鼻をかすめ、浴びる太陽に肌がジリジリといっている。

空の青と、海の青が目の前に広がる。

「この時間がずっと続くのも悪くない」と思い、今しか体験できない景色と時間に出会えたんだとふと考えたら、無意識に涙が出た。

無くしてはならない、気づかないとならない魅力を体験してほしい。

忙しく生きる現代社会で、「日本の声」が聞こえる場所を訪れてほしい。

佐久島を訪れて、そう思った。

 

kakite & photo : Naomi Kakiuchi

 


佐久島公式サイト

http://sakushima.com/

三河・佐久島アートプラン21 ウェブサイト

http://www.m-mole.com/sakushima/

 

取材協力:オフィスマッチングモウル

Thanks a lot of 島を美しくつくる会 鈴木さん & カフェ・オレガレ マキさん & カフェ・もんぺまるけ 芝ちゃん&オフィスマッチングモウル 金沢さん


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